2016年7月26日火曜日

辛味の陰陽 その②

「体内の熱を一定の範囲に保つ」というのが、絶対的なカラダのバランス法則だとしましょう。

そうすると、熱が下がり過ぎれば、産熱の機能が、熱があり過ぎれば、排熱の機能が働きます。
この産熱と排熱を、身体の中における、“火と水の働き”に例えれば、確かに分かりやすいですよね。


ここで唐突ですが、真夏に室内を28度に設定してエアコンを入れたら、なぜかもっと暑くなって、どうしてだろうとリモコン画面を見てみると、機能が“暖房”になっていた、なんてこと、ありませんか?

未経験の方は、一度お試しあれ♪

暖房の28度と、冷房の28度、同じ温度にするのに、全然プロセスが違うんだってことを、納得して貰えると思います。

でも、カラダというのは、冷房や暖房のように、機能を切り替える訳ではありません
熱を冷ますのも温めるのも、同じ機能の延長線上にあるのです。

改めて、辛味の働きである“発汗・発散”作用を考えてみましょう。

発汗・発散は、血流を良くして体表(皮膚)まで血熱を運び、結果として身体の熱を放出する生理現象です。

つまり辛味は、気血のめぐりを良くして身体を“温めてくれる”とともに、余分な熱を“排出してくれる”という、一見相反する働きを持ちます。

でも、熱があり過ぎれば発散するし、熱が足りないところがあれば、そこに熱を巡らせる香辛料の働きは、「体内の熱を一定の範囲に保つ」という点から見れば、矛盾していないのです。

寒くて血熱が内臓などの中心部に集まり、末端が冷えている時は、体表に気血を巡らし、熱を全身に運んでくれるから、”温め”に作用。
よって、その時点でのカラダの作用から見れば、“陽”の性質。


暑くて血熱が身体の中にこもっているような時は、皮膚から気を発散し、汗を出してくれるから、結果的には”熱を下げる”ように作用。
この時点でのカラダの作用では、“陰”の性質。



“陽極すれば陰となり、陰極すれば陽となる”


という言葉の通り、陰と陽はお互いを別って考えることはできません。

結論から言えば、辛味は温める働きを持つから“陽性”にもなりうるし、排熱する働きを持つから“陰性”でもある、わけです。

わたしの考えでは…どっちも正解ヽ(^o^)丿

ただ、”熱を全身の巡らせる“作用があっての”発散・排熱“作用であると考えれば、最初の作用は、素直に”温め“に働くと考えて良いように思います。
辛味を食べ過ぎれば、カラダが冷えるかというと、そうは言えませんし。
どちらかと言うと、熱よりは“気”を散じ過ぎて、中が空っぽ状態になる可能性はあります。

いずれにせよ、食べ過ぎはどの食材も弊害をもたらします。

これは、辛味だけに言えることではありません。
全てのものに言える、陰陽の本質でもあります。


なぜなら、わたしたちだけでなく、全ての物は常に“動いて”います。
お互いに、“作用し合う”ということは、陰陽の消長の波を描いているということ。


陰になったり陽になったり、を繰り返すことで、その“動き”が営まれているのです。

陰に偏り過ぎれば、陽が隆盛し、陽が強すぎれば、陰が抑える…

不足を助け、過多を抑える、この働きは別のものではなくて、同時に作用しているのです。


…辛味の陰陽から、宇宙の陰陽のお話になってしまいました。

いずれにしても、暑い夏、辛味の散熱・排熱の働きを借りると同時に、冷房や冷たい物の摂り過ぎで、体内を冷やし過ぎることを予防する意味では、辛味の温め作用も有効に借りましょう。


食養生レシピ                                       

最近、“薬膳カレー”という言葉を見かけますが、カレー粉のスパイスは、漢方生薬でもおなじみのものが多々あります。


色の素となるターメリックは、生薬では鬱金(ウコン)。
辛さの素となるのは、

蕃椒(トウガラシ)・胡椒(コショウ)・大蒜(ニンニク)・生薑(ショウガ)
いずれも『本草綱目』でおなじみです。

香りの素となるとなるハーブたちは、カタカナ名だとしっくりきませんが、やはり生薬として知られます。
クミン=馬芹(バキン)
クローブ=丁子・丁香
シナモン=桂皮
カルダモン=小荳蒄(ショウヅク)
ナツメグ
=肉荳(ニクズク)
キャラウェイ=姫茴香
フェンエル=小茴香


生薬をミックスして作るようなものですから、“薬膳カレー”というのは“白い白線”というようなもの。

ただし、日本の食卓で馴染み深いカレーは、市販のカレールーを使ったものだと思います。
カレールーはかなり油分が多く、食塩や砂糖の含有量の方が、カレー粉を上回るのだとか。
お肉を入れて、油で具材を炒めて、油分たっぷりのカレールーで作るカレー…

これでは、辛味や香辛料の効能を借りるどころか、胃が弱りがちな人には、却って負担になってしまいますね。

そこで今回は、油分を抑えた、さっぱりとした夏野菜のカレーの作り方をご紹介します(*^_^*)

【夏野菜カレーの作り方】


〔材料〕


・玉ねぎ・ナス・トマト・パプリカ・ズッキーニ・茸類・セロリ・パセリ等

・ローリエ(月桂樹)
・コンソメの素
・カレー粉(粉末タイプ)
・調味料:塩・トマトピューレ・ソース・サワークリーム等



〔作り方〕


①玉ねぎは薄くスライス。ナス・トマト・パプリカ・ズッキーニ・茸などの夏野菜は、適当な大きさに切る。
②鍋に①の野菜類を入れ、水・コンソメ・ローリエを加えて、とろ火で煮込む。
③沸騰してきたら火を止め、カレー粉を加えて、調味料で味を調える。


 *トマトは酸味の強いものを選ぶ。
トマトの水煮缶を薄めて煮ても良い。
 *野菜類をオリーブオイルで炒め、後から加えると、野菜の彩りが良い。

カレー粉だけでは味が不安な場合は、市販のカレールーを少量加えるなど、工夫してみてくださいね(*^_^*)

2016年7月25日月曜日

辛味の陰陽 その①

今回のテーマは、五味のひとつ、辛味”
五行では金行に属し、五臓では肺・大腸を補う味とされています。

辛味には様々な働きがありますが、特徴として身体を温める“温・熱”の性質を持ちます。
ですから、辛味に配当される食材や薬剤は、“陽性”である、と言われます。

しかし、マクロビなどを学ばれた方は、ここで疑問に思われるでしょう。
例えば、東洋医学の世界では“辛・温”の代表的な生薬として知られる「生姜」は、マクロビでは陰性食品になっています。

どうして、陰陽のカテゴリーが真逆になるの??
と、誰でも思いますよね。

さらに、辛味の代表料理と言えば、“カレー”を思い浮かべる人も多いでしょう。
カレーは、インドやパキスタン、東南アジアなど、暑い気候の国々の伝統料理です。

辛味が身体を温める働きを持つのなら、なぜ暑い地域で食べられているの??

…という疑問が湧いてきますよね。

この辛味の働きの“矛盾”について考えるには、自然界の陰陽というものを、きちんと理解する必要があります。

これをカンタンに説明できたなら、こんなまわりくどい記事だとか、バランス絵本を作る必要はないのです…
まだまだ本質を理解し切れていない身では、つい言葉が多くなってしまいますが、ご了承くださいね(^_^;)

取りあえず、頑張ってみます。

陰と陽はよく、具体的な物質として、水と火の働きに例えられます。
分かりやすいですよね。

冷やし、下へ流れる水。
熱し、上へ燃え上がる火。



確かに陰陽の特徴を、もっとも良く表していますし、相反する存在です。

でも、水と火を”別々のモノ”として考えると、ちょっと意味が違ってきてしまいます

火と水が、“本来は同じモノ”として考えないと、体内、ひいては自然界の陰陽は、うまく説明できません

…さぁ、難しくなってきた(・・;)


その②へ続く…

2016年7月14日木曜日

夏の食養生法 まとめ

夏の暑さによって、汗をかくのは、自然なカラダの反応です。
でも、発汗による気血の消費は、消化機能を低下させてしまいがち。

冷たいものを好んで食べてしまう&食材の“寒”の性質は、“心”の熱を冷ますことには有益に働いても、胃腸には冷えは大敵です。

こうした夏場の脾胃を守って、滋養してくれる食材も積極的に摂りましょう。
枝豆・山芋・大麦、それにお豆腐や白身魚の練り物なども、オススメ。

また、肝機能の低下が、夏バテの疲労感を助長させるので、“肝”を補う酸味も、積極的に摂りたいもの。

レモン・梅干・ラッキョウの酢漬け・酢の物などの酸味の食べ物は、胃のむかつきを解消し、乳酸などの疲労物質を取り除いてくれるので、疲労回復や夏バテ防止に効果的です。


さて、数回に分けて、夏の食養生法をご紹介してきました。
まとめてみると、

   旬の夏野菜で水分とミネラル補給

   発汗・発散を助け、身体を温めて消化を助けてくれる、辛味を添える

   “心”を補う苦味を摂る

   脾胃を滋養するもの

   疲労回復効果のある酸味を取り入れる

こんな感じです♪

結構たくさんありますね。

でも、難しく考える必要はありません。
夏の食卓に並ぶお料理を、ちょっと考えてみてください。

冷やしトマト・もろきゅう・枝豆・茄子料理(茄子の煮浸し・麻婆茄子‥)・薬味を添えた冷奴・素麺・蕎麦・冷やしうどん・ゴーヤチャンプル・もずく酢…

ほら、ちゃんと、食養生法が活かされていますよね(*^_^*)

普段、何気なく食べられているお食事には、 “意味がある”のです。

自然と、自分のカラダと、食べ物が、つながっているんだ!
と、気付くきっかけになれば、幸いです。


最後に、夏の食養生レシピをご紹介します♪

【冷や汁】

夏野菜で程よく余分な熱を冷ましながら、同時に消化機能の落ちた脾胃を手当するのに、おすすめの伝統食です。
鯵などの魚を用いるなど、地方によって作り方に多少の違いがあり、その内容も様々に異なりますが、今回は、お豆腐と香味野菜を加えたものをご紹介します。


〈材料〉
豆腐(水切りしておく)
胡瓜・紫蘇・茗荷・生姜・ネギなどの香味野菜
白ゴマ
味噌
だし汁(冷やしておく)

〈作り方〉
   胡麻をすり鉢でする。
   ①に水切りした豆腐と味噌を加え、さらにすり合わせ、出汁で伸ばす。
③ ②に輪切りにした胡瓜、みじん切りにした香味野菜を混ぜ合わせる。

*オクラやメカブなどのネバネバ食材を加えても良し。
 お豆腐をすり合わせず、野菜と胡麻と味噌だけで汁を作っても良し。
 お豆腐を入れないバージョンを、お豆腐にかけてみても美味しいですよ。
  いかようにも好みでアレンジしてみてください。


  

冷や汁を麦ご飯にかけて頂けば、更に理想的。
大麦は「五穀の長」とも言われ、血熱を冷まし、消化を良くして胃のつかえをなくし、食欲を増してくれます。


お試しくださいね(*^_^*)






2016年7月13日水曜日

夏と”心”~夏の食養生法 その③

心臓というのは、季節を問わず、熱を持った場所です。
ここに夏の暑さが加わることで、その負担が増すことになります。

東洋医学では、“心”は火行に配当される五臓。
その“心”を養生する味は、“苦味”

強心・消炎・解熱・鎮痛・利尿作用があり、心臓の高ぶりを抑えたり、体内の熱を冷ます性質を持っています。

そこで、夏の食養生法、三つ目のコツは、苦味のある食べ物を取り入れること。

苦味の食材の代表的なものとしては、筍や蕗などの山菜・春菊・蕪・大根の葉・お茶・魚の内臓などがあります。

夏に出回るものでは、あまり種類は多くありませんが、苦瓜・レタス・新牛蒡など。

日本では昔から、“夏は葉のもの”と言いますが、青い葉物の野菜は、独特の苦味を持っているものです。

お茶も苦味の代表的な食材ですので、抹茶や緑茶を上手に取り入れてみてください。


ところで、苦味の食材の多くが持つ、身体の熱を冷ます”寒”の性質は、暑いこの時期の血熱を冷まし、心臓を助けてくれますが、やはり摂り過ぎたり、それだけを食べるのはオススメできません。


前回ご紹介した、身体を温めてくれる辛味の食材と組み合わせて、お料理してみてくださいね。


これが、食べ物の陰陽の偏りをなくして、”平=バランス良い状態”にするコツです。


次回、夏の食養生法 まとめ

夏と”心”~夏の食養生法 その②

ここ数日、暑さで体調に影響が出ている人も、多いかもしれません。

発汗・発散は、血流を良くして体表(皮膚)まで血熱を運び、結果として身体の熱を放出する生理現象です。

この発汗・発散は、気温以上に、湿度に影響されることが多いのです。
*関連記事:湿気について

気温が高くても、乾燥していれば、”不感蒸泄”と言われる熱や水分の発散が可能です。
ですが、湿度が高いと、どうしても排熱がうまくいかず、体内に熱がこもってしまいます。
熱中症の原因ですね。


そこで、辛味(香辛料や薬味)の食材のチカラを、上手に借りる 
これが、夏の食養生の二つ目のコツです。

辛味は、気血のめぐりを良くして身体を“温めてくれる”とともに、余分な熱を“排出してくれる”という、一見相反する働きを持ちます。
矛盾して聞こえますが、これについては、また別の機会に譲るとして…

いずれも、この時期のわたしたちのカラダに、有益な作用です。

まず、発汗・発散を助けてくれる点。

前述の通り、体内の排熱のため、心臓にも負担のかかる生理機能ですので、辛味の力を借りて発汗・発散を促すことが出来ますね。

続いて、身体を温めてくれる点。

暑いこの季節、身体を冷やす水気の多い食べ物や、よく噛まずに食べてしまいがちな、麺類が好まれるのは、当然のこと。
しかし、胃腸を冷やし過ぎると、消化機能が低下することは、以前の記事でも紹介しました。

そこで、温める作用を持つ、辛味を添えることが大切になります。

でも、辛味の優れた点は、これだけではありません。
辛味に分類される食べ物には、スパイシーな香辛料や、香りの良い”薬味”が含まれます。

これらは胃腸の働きを促してくれるので、暑くて食欲がない・胃がもたれる・消化不良…時には効果的。
さっぱりとした香りが食欲を増し、辛味成分が胃腸に適度な刺激を与えて、消化を促進してくれます。

具体的な食材の組み合わせとしては…

素麺・蕎麦など冷たい麺類+薬味(生姜・大葉・葱・茗荷など)
冷奴+薬味(生姜・大葉・葱・茗荷など)
トマト+刻みたまねぎ・大葉・バジル
ナス+生姜・ニンニク・大葉

などなど。

どれも、普通の食卓に、馴染み深い組み合わせではないでしょうか。

単なる彩り、にぎやかし…と思われるかもしれませんが、この少量の辛味の存在は、薬膳理論に則った、深い意味があるのです。


ぜひ、面倒くさがらずに、辛味を添えて、その恩恵に与ってくださいね。




夏の食養生法 その③に続く…

夏と”心”~夏の食養生法 その①

まず、夏を健康に過ごすコツは、しっかりと汗を流すこと

発汗は、体内にこもっている熱を排出して、体温調節をするだけではありません。
余分な水分や塩分も、いっしょに出してくれます。

つまり、新陳代謝を良くして体のむくみを解消し、血圧を下げる効果が期待できます。

でも、これを裏返して考えると…?

確かに、発汗は夏の養生法の一つですが、一方で栄養分・水分を消耗することになります。

ですから、飲食による補充が大切
これを補充しないと、体液のバランスが崩れ、代謝が乱れてしまうのです。

そこで、夏の食養生法のひとつめのコツは…

汗によって消耗される水分・ミネラル分を補給してくれる食べ物を摂ること

トマト・胡瓜・ナス・冬瓜・オクラ・スイカ・メロンなど、夏に旬を迎える野菜や果物は、水分を豊富に含んでいますし、同時に汗と一緒に排出されるビタミンやミネラル分を補うこともできます。

また、これらの食材は、総じて“体の熱を冷ます”作用があります。

冷たい飲み物ばかりに頼らず、上手に食べ物の力を借りるようにしましょう。

加えて、汗は塩分を含みます。

発汗後は水分だけでなく、適度の塩分の補給も、お忘れなく(*^_^*)

夏の食養生法 その②に続く…

2016年7月11日月曜日

夏と”心”~暑さがカラダに及ぼす影響

容赦のない夏日が続いていますね。

東洋医学では、夏は火行に属し、陽の気が最も盛んになる季節です。
この時期に最も負担のかかるとされる五臓は“”。

*「心は君主の官」と言われ、全ての臓腑の頂点に君臨する“王”と位置付けられています。心臓は血液を全身に行き渡らせるポンプ役として、生まれてから死ぬまで休まず動き続ける臓器ですが、東洋医学で言う“心”は、血液循環器系・小腸を含みます。

南風は夏に生じ、病はに在り、()胸脇(きょうきょう)に在り。・・・
黄帝内(こうていだい)経素(けいそ)(もん)-真言論四 第二節-』より 



実際、気温の高い日が続くと、心臓疾患が多くなるとも言われています。

何故、暑さが心臓に負担をかけるのでしょう?

常に動き続ける“心”は人体の熱源
いつでも熱がある状態なのです。
ですから、“心”を助ける味は、熱を冷ます作用を持つ“苦味”が配当されています。

さて、自然とわたしたちのカラダには、相似・相関関係があります。
*詳しく知りたい人は、『ヘイちゃんのバランス絵本②~自然とカラダの不思議な関係』を見てみてくださいね(*^_^*)

この季節の特徴である暑さ。
この暑さは、わたしたちのカラダの中のバランスを、揺るがしかねない影響力を持っています。
これを“暑邪”と言います。

話を戻して、心臓との関係。
暑いと汗をかきますよね。

発汗は体内の体温調節機能の一つです。
皮膚から汗を出すためには、体表の毛細血管まで血熱を運ぶ必要があります。
ポンプ役の心臓は、いつもより頑張らないといけません。

加えて、汗をかくと、血液濃度が高くなってドロドロした状態になります。
これもまたポンプ役の心臓にとっては、負担。

暑さによって、いつもより余分な熱がこもる→
体温バランスを保とうと心臓が頑張る→
結果、心臓が疲れる。

こういう方程式になるわけです。

暑邪の影響は、これだけではありません。

心臓が頑張るということは、それだけエネルギー=気血を使うということです。
カラダの中のエネルギーというのは、一定なので、心臓がいつもより頑張るからと言って、エネルギーがその分増える訳ではありません。

心臓がいつもより頑張ることで消費される気血は、生命維持活動の中でも、最もエネルギーを使うと言われる、消化活動にも影響します。

要するに、消化活動に使うエネルギーが、不足しがちになるのです。
“心”が生み育てるのは、“脾胃”。
五臓の親子関係相関図↓で見ると、親である“心”がエネルギーを使い過ぎて、子である“脾胃”に十分なエネルギーが供給されない、ということになります。




食欲不振や夏バテになりやすいのは、“心”が頑張ったために起きる弊害のひとつ、という訳です。


夏の食養生に続く…


2016年7月8日金曜日

本草MEMO~生姜(しょうが)

八百屋さんで、新生姜を見かけるようになりました。

生姜は生薬にも使われていますが、一般的な食材として、日々のお料理にも利用されていますね。

そもそも、本草というのは、中国伝統医学においての、“薬物に関する学問のこと”を指します。
伝統的な医学では、主な生薬の原料は植物。
それが食用に適すか、薬用に適すかの違いであって、食べ物と生薬には、厳密には区別はありません。

 薬食同源という言葉の所以ですね。

それぞれの植物の性味や効能についてご紹介する際、参考にしている『本草綱目』は、明の時代(1500年代)に、李時珍という人によって編まれた、医薬物学書です。
ここには、性味・効能はもちろん、植物の名前の考証や、具体的な処方方法、様々な書物や先人達の説などもまとめられており、本草学者であるとともに、医家でもあった李時珍さん自身の体験や考察も述べられています。
中国の本草史上、その量と内容がもっとも充実したもので、日本の本草学にも大きな影響を与えました。


ところで、『本草綱目』にもまとめられていますが、中国最古の本草書といわれる『神農本草経』(本経)や、『名医別録』(別録)では、人に作用する薬効の強さによって、上・中・下の区分(“三品分類”)がされています。
 
国会図書館デジタルコレクションより

上薬一百二十種為君 主養命 以応天 無毒
多服久服不傷人 欲軽身益気不老延年者 本上経

中薬一百二十種為臣 主養性 以応人 無毒有毒 
斟酌其宜 欲遏病補虚羸者 本中経

下薬一百二十五種為佐使 主治病以応地 多毒 
不可久服 欲除寒熱邪気破積聚癒疾者 本下経

-『本草経序録』より-

(上薬は百二十種、君と為す。命を養うを主どり、以て天に応ず。無毒。多く服し、久しく服するも、人を傷れず。身を軽くし、気を益し、老いず、年を延べんと欲する者、上経に本づく。
中薬は百二十種、臣と為す。性を養うを主どり、以て人に応ず。無毒・有毒、其の宜しきを斟酌す。病を遏め、虚羸を補わんと欲する者、中経に本づく。
下薬は百二十五種、佐使と為す。病を治するを主どり、以て地に応ず。毒多し。久しく服すべからず。寒熱・邪気を除き、積聚を破って疾を癒やさんと欲する者、下経に本づく。)

上薬(上品)とは、無毒で、“命を養うもの”。多く、長い期間服用しても良いもののこと。

中品(中薬)とは、上薬を助け、“体力を養う滋養薬”。有毒のものもあるので、加減して用いる必要がありますが、病を抑え、身体の衰弱を補う働きを持ちます。

下品(下薬)とは、“治療を目的としたもの”。病の主因となる邪を散らす作用を持ちますが、毒性も強いため、長期間の服用は良くありません。

上・中・下の順に人体への作用、ひいては毒性も高くなります。

病を抑える作用が強い程、“良い薬”という評価があっても良さそうなもの。
ですが、“毒にも薬にもなる”という言葉があるように、植物は陰陽の二面性を併せ持っているわけです。


さて、話はもどって、生姜。

生姜は『本草綱目』の記述によれば、「別録中品」(つまり、『名医別録』で中品と分類されている)とあります。

その味は“”、性は“微温”。

「生で用いれば発散し、熟して用いれば中を和す」
「薑(はじかみ:しょうがのこと)は辛にして葷(くん:葱・ニンニクなどの匂いの強いもの)ならず、邪を去り、悪を避けるもので、生で啖ふにも、熟して食うにも、醋(酢)・醤・糟・塩にも蜜煎にも宜しからぬはなく、蔬菜(そさい:青物・野菜のこと)になり、調和剤になり、果子になり、薬になる。その利用範囲の広いものだ」

とあり、大変優れた効能を持っています。

しかし、“中品”ランク。

「久しく食すれば、積熱して目を患う」ともあり、生姜に限ったことではありませんが、やはり極端な摂取はオススメできないようです。

ただ、「冷え」を解消したり、反対に滞った「熱」を除く発散の作用は、この季節にぜひ生かしてほしいもの。

上記の通り、“中品”の役割は、「君」(主役)ではなく、「臣」(補佐)役です。


お素麺や冷やしうどん、冷奴や茄子の煮浸しなどに添える、“薬味”の使い方は、生姜の持つ力を借りるベストな方法と言えますね。

最後に、新生姜の簡単レシピをご紹介します。

【新生姜の佃煮】               

〔材料〕

・新生姜 800g1
・醤油 100130ml
・みりん 5070ml
・てんさい糖又は黒砂糖 200220g
 *好みで昆布やかつお節を加えても良いでしょう。

〔作り方〕

① 新生姜を水で洗い、皮ごと薄切りにする。
  *少し太めの線切りでも良い。食感が違うので、好みの切り方で。
② 切った新生姜を水に晒す。
   もしくは辛味が強いようなら、沸騰したお湯にさっと通して、湯でこぼす。

③ 調味料と、良く水気を切った新生姜と共に鍋に入れ、

    弱火で焦げ付かないように煮詰める。

新生姜の佃煮
長期間保存がききますし、ピリッとした辛さで、常備菜として作っておくと、重宝しますよ(*^_^*)
箸休めや口直しにいかがでしょうか。

2016年7月7日木曜日

“たなばた”に寄せて

〔五節句 七夕〕の記事で、機織りには、さまざまなメタファーが含まれる、と書きました。

経糸と緯糸を織る。
糸から織物が創られる。


織られた布は、経糸と緯糸の果てしない交差の軌跡です。

経糸も緯糸も、同じ糸。

 “経糸”と“緯糸”の役割を与えられただけですが、この二者は十字に組み合わされ、並行して寄り添うことも、入れ替わる事もありません。


引っ張ればすぐに切れてしまう糸から作られるのは、もう一つ上の次元のもの。
織られた布の強度は格段に上がります。


織られた布を良く見てみれば、経糸と緯糸は、交互に表になり、裏になり、決してどちらかだけが表地を席巻している訳ではありません。
借りに表地と裏地があったとしても、裏返せば裏は表、表は裏。


…何だか禅問答のようになってきました()


機織りには、“陰陽和合”-自然界の陰陽が織りなす生命の営み-を見ることができるような気がします。


“たなばたつめ”―“機を織る女性”は、さながら宇宙万象を創りだす、女神に例えられるかもしれません。



2016年7月5日火曜日

七夕の節句

77日は五節句の一つ、七夕しちせきの節句です。
 “たなばた”“星祭り”などの呼び名の方が、なじみが深いでしょうか。


*「七夕」と言えば、中国の二星会合の伝説―彦星(牽牛星:わし座のアルタイル)と織姫(織女星:こと座のベガ)―にまつわるお話が良く知られます。
天の川に隔てられた二人が、一夜だけ逢うことのできる夜ですね。
この日は、五色の糸や針などを供え、手芸の神である織女にあやかって、裁縫や詩歌などの上達を願う、“乞巧奠(きっこうでん)”と呼ばれる行事が行われます。
”乞巧奠”は、平安時代、宮中の年中行事として行われていました。

 “たなばた”という呼び方は、日本の“棚機女(たなばたつめ)”の信仰に由来すると言われています。

農耕民族にとって、稲作に関する神(水神)は特に重要な存在。
七月、聖なる乙女が、神に捧げる布を織るため、水辺の棚小屋に籠って機を織り、神の降臨を迎え斎く、というものです。
これは、降臨した神に穢れを払ってもらうという意味があり、笹竹飾りを水に流す、“七夕送り”などは、その名残と言われています。
*“棚機女”の信仰は、祖霊を迎える祭り、盂蘭盆会とも結びついています。

経糸と緯糸を織って、布を作る―機織りは、生命の営み、時や運命を紡ぐ、宇宙の記憶を記す、など、さまざまなメタファーを含み、 “機を織る女性”は、神聖な存在として、世界中の古い伝説の中に描かれています。

中国に由来する五節句の中で、“たなばた”だけ日本語の読みなのは、日本にもともとあった習俗と結びついたためなのですね。

裁縫の上達の祈願が、短冊に願いを書くことになり、
本来捧げものであった糸や布に代わって、色とりどりの網飾りが飾られるようになりましたが、
やはり夏の風物詩として、今でも親しまれている行事です。

さて、五節句は植物と関わりが深いと、以前の記事でもご紹介しました。
七夕の節句では、“笹竹”が使われますね。

 “笹の葉さ~らさら~♪”

という歌が頭に浮かびますが、笹ではなく、竹で作られた七夕飾りもよく見かけます。

笹なのか竹なのか、どっちなのでしょうか(^_^;)

竹と笹は、いずれもイネ科タケ亜科に分類されますが、植物学的な定義が曖昧なようです。
専門家の間でも諸説あるようで、ここではなんとも言いようがありませんが…

とても、おおざっぱに言えば、比較的大きいのが竹、小さいのが笹<(`^´)>
どちらを使っても良いようです。

葉が風に揺れる様子は、何とも涼やかに見えますが、『本草綱目』によれば、竹も笹も、“”の性質で、熱を冷ます働きに優れます。

見た目や音だけでなく、実際に清熱の効能を持っているわけですね。
熱が籠りやすいこの時期に、ぴったりです。



しかし、竹は初春の筍以外では食用としては難しく、5月の端午の節句の粽で笹が利用されますが、七夕ではいずれも“食用”ではありません。

竹や笹が七夕に使われるのは、どちらかというとその薬効にあやかる、というよりは、その神聖な力を借りる、という意味の方が強いかもしれません。

特に竹は、その強靭さと成長の早さ、生命力の強さ、中が空洞である特異な特徴などから、古くから神聖視され、神聖な存在を降ろす依り代としても利用されてきました。


七夕となじみの深い食べ物には、意外ですが、素麺があります。

神饌として供えられた“索餅(さくべい)“が由来とも、裁縫上達を願う際、”糸”を模して供えられたとも云われています。


“索餅”は、唐から日本に伝わったお菓子で、小麦粉と米粉に塩を加えて練り、ツイストドーナツのように縄状にしたものです。
乾燥させて保存し、茹でて食にあてたようで、その形から、”麦縄”とも言われるそうです。

この”索餅”、今でも再現できそうですね。

お醤油などをつけて頂いても良いし、餡子やジャムをつけて甘く仕上げたり、揚げパンのようにしても、お美味しそう。
シンプルなので、いろいろと工夫が出来ると思います(*^_^*)

ところで、素麺などの麺類は、冷やして頂くと涼を取れるので、食欲の落ちる夏に好まれます。

ここで一つ、食養生アドバイスを。
麺類は、喉越しが良いので、ついついあまり噛まずに呑み込んでしまいがち。
消化に負担がかかります。


加えて、胃腸は冷えを嫌うもの。
冷えることで、消化機能が低下してしまいますので、冷やした麺類には、必ず身体を温める“薬味”を添えるようにしてくださいね(*^_^*)


紫蘇・生姜・茗荷・葱・ワサビなどの香辛料は、香りも好くて食欲をそそりますし、温めてくれるだけでなく、消化も助けてくれて、さらに殺菌力にも優れます。


簡単ですが、これも、立派な食養生です。

↑イラストのお素麺は、青紅葉ですが…(^_^;)

”たなばた”に因んで、笹竹の葉をあしらい、見た目も涼しく演出してみるのも、良いですね。
ステキな七夕をお過ごしください。