“何を食べれば、健康に良いか?”とか、
“コレコレこういう症状には、何の食べ物が良いか?”とか、
薬膳や食養生に携わるようになって、こうしたことをよく質問されます。
正直に言うと、このような質問に対して、単純な回答はできません。
どの食べ物がどのような働きをするか、どのような症状に良いか、という“知識”は、勉強して多少は得ました。
例えば、“胃が痛い”という人に対して、“キャベツはビタミンU(キャベジン)を豊富に含み、胃潰瘍などの胃腸の不調に良い”ことは知っています。薬膳的に言えば、脾胃の薬そのもの。
けれども、今の時代、単純に“キャベツを食べるといいですよ”とは、言えないのです。
そのキャベツが“どの土で、どんな水で、どんな風に育てられたものか”まで考えなければ…
だって、化学肥料や農薬をガンガン使っていたって、“キャベツ”ですものね。
“食”というものは、様々な分野と密接に関係しています。
逆に言えば、“食べ物”だけで健康を語ることはできない。
そもそも食べ物は、自然が恵んでくれるものです。
土、水、空気によって育まれるのですから、本当に“食”や“健康”を考えるのなら、自然や環境は無視できません。
そして、わたしたちを取り巻く“食”事情は、“食べ物”の姿になる以前から―土も、水も、空気も、環境全てが、とても悲しい状況にあります。
本来なら、自然の恵みである食べ物は、“自然”なもののはずなのです。
キャベツもリンゴも大根も、作られる背景まで問う必要はなかった。
でも今の世の中は違います。
先の例で言えば、“キャベツを食べればいいですよ”という単純明快な回答ができない世の中になったということが、それを反映しています。
そしてこれは、食べ物を仲介して、わたしたち自身に問うべき問題でもあります。
土や水が変化したものが食べ物なら、食べた物で出来ているのが、わたしたちのカラダなのです。
汚染された土壌で出来た食べ物を食べれば、わたしたちのカラダは当然汚染されます。
農薬や化学肥料、殺虫剤を土に混ぜれば、それはそのままわたしたちの体に塗り込むのと同じです。
水を汚せば、わたしたちの血液もまた濁るのです。
環境汚染と難病疾患は、合わせ鏡の関係にある―なぜなら、わたしたちは、全部つながっているからです。
わたしたちの体は、自然そのものだからです。
この関係を知らなければ、現代社会にある様々な問題の本質をとらえることは、おそらくできないと思います。
どうか、本当に“食”や健康について考える方は、心に留めておいてください。
“自分の健康”という狭い考え方では、本当の意味では健康にはなれないのです。
“何を食べれば良いか”以前に、その食べ物を恵んでくれる自然に対して、わたしたちが取るべき態度を改めるべきではないでしょうか。
全部つながっているという感覚で、どうか自分のカラダと自然との関係を、もう一度感じてみてください。
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