2016年3月29日火曜日

”気血”のおはなし


信州白馬の姫川の源流―

地中を長い時間をかけて巡ってきた水が、唐突に湧き出す場所です。

それまで静かだった森が、水音を奏で出す瞬間を目にすると、不思議な気持ちでいっぱいになります。

今、湧き出たこの水は、川になり、あるいは海にたどり着き、あるいは気化して雲になり、どこかに降り注ぐ雨になるかもしれない…誰かに飲まれるかもしれないし、植物に吸い上げられて、食べ物になるかもしれない。

そうやって、カタチを変えながら、常に巡っている。 
水は、まるで自然界の血液のようですね。


さて今日は“気血”について。

身体の中には、いつも血液が巡っています。
これは誰もが知っていること。

東洋医学ではここに、“気”というものの巡りを加えて、人体の生命活動を説明します。

さてさて、“気”というのはカタチが無い上に、目に見えません。

でも「やる気がでない」とか、「元気になる」とか、言いますよね。
「気力」とか「生気」などの言葉もありますし、意外とみなさん“気”を意識せずとも何となく分かっている気がします。(←あ、この“気”は気持ちの方の気かな(^_^;)

では「元気」の“気”って何でしょう?
といわれると、ちょっと説明できませんよね。

東洋医学的な解釈でいけば、“気”というのは、身体の中を絶えず循環し、人体の生理機能を運動させる動力、言ってみれば、“エネルギー”のことです。
“気”―精気・元気などともいわれる、この生命エネルギーのチャージ方法は、以前の記事でも取り上げました。

“気”がなければ、全身に血が行き渡りません。

血液は心臓が動くことで全身を巡るのですが、そもそも“気”がないと臓器も動かないのです。

でも、“気”だけがたくさんあっても、運ぶモノがなければ全然意味がないですよね。

何を運ぶかというと、“血”です。

「血と気とは異名同類なり」 

(意訳:血と気は、名前は違うけれど、同じようなもの)
-黄帝内経素問霊枢 営衛生会篇第十八-

という言葉があります。

「気は血の師」と言われ、“気”の動力によって、“血”は絶え間なく全身を循環します。
つまり、“気”が行けば“血”も行き、“気”が滞れば“血”も滞る。

また、“気”の活動は、“血”の供給する栄養のおかげで作用できます。
“気”を生み出すモトですから、「血は気の母」なのです。

…なんだか、ややこしくなってきましたね…

“気”がないと、“血”は巡らず、
“血”がないと、“気”が生まれない。

要するに、“気”と“血”は相互に依存し、分けることのできない不可分の関係にあるわけです。
ですから、“気血”のどちらかのバランスが崩れると、双方に影響が出ます。

ところで、“気血”は、主に食べた物を基に作られ、チャージされます。

そして、これらが体内を循環することによって、五臓六腑を養い、正常な機能を保ち、生命活動を維持しているのです。

 “気血”が相互にバランスを保ち、順調にめぐっている状態が“健康”。

“食べ物”が重要なのは、言うまでもありません。


本草MEMO~母子草

お散歩をしていたら、空き地に生えていました。



ハハコグサ。

春の七草のひとつ、“おぎょう(ごぎょう)”。
漢名では鼠麹草(そきくそう)とも言われます。


今は草餅と言えばヨモギが思い浮かびますが、昔はこのハハコグサが用いられていたそうです。
江戸時代の救荒植物としても知られ、『備荒草木図』には、


葉を灰湯にてゆで、水を換へ浸し塩味噌に調食べし。
又蒸し搗て米の粉に和ぜ 餅としても食ふべし。


とあります。

その性は寒熱の偏りのない“平”。
味は“甘”。(『本草綱目』より)
肺が冷えることで起こる、咳や痰・喉の痛みなどに良いとされています。


日干しにして、お茶にしてみてもいいかもしれませんね(*^_^*)


2016年3月22日火曜日

自然と食べ物とわたし達のカラダ

“何を食べれば、健康に良いか?”とか、
“コレコレこういう症状には、何の食べ物が良いか?”とか、

薬膳や食養生に携わるようになって、こうしたことをよく質問されます。

正直に言うと、このような質問に対して、単純な回答はできません。

どの食べ物がどのような働きをするか、どのような症状に良いか、という“知識”は、勉強して多少は得ました。

例えば、“胃が痛い”という人に対して、“キャベツはビタミンU(キャベジン)を豊富に含み、胃潰瘍などの胃腸の不調に良い”ことは知っています。薬膳的に言えば、脾胃の薬そのもの。

けれども、今の時代、単純に“キャベツを食べるといいですよ”とは、言えないのです。

そのキャベツが“どの土で、どんな水で、どんな風に育てられたものか”まで考えなければ…
だって、化学肥料や農薬をガンガン使っていたって、“キャベツ”ですものね。

“食”というものは、様々な分野と密接に関係しています。

逆に言えば、“食べ物”だけで健康を語ることはできない。

そもそも食べ物は、自然が恵んでくれるものです。
土、水、空気によって育まれるのですから、本当に“食”や“健康”を考えるのなら、自然や環境は無視できません

そして、わたしたちを取り巻く“食”事情は、“食べ物”の姿になる以前から―土も、水も、空気も、環境全てが、とても悲しい状況にあります。

本来なら、自然の恵みである食べ物は、“自然”なもののはずなのです。
キャベツもリンゴも大根も、作られる背景まで問う必要はなかった。

でも今の世の中は違います。
先の例で言えば、“キャベツを食べればいいですよ”という単純明快な回答ができない世の中になったということが、それを反映しています。

そしてこれは、食べ物を仲介して、わたしたち自身に問うべき問題でもあります。

土や水が変化したものが食べ物なら、食べた物で出来ているのが、わたしたちのカラダなのです。
汚染された土壌で出来た食べ物を食べれば、わたしたちのカラダは当然汚染されます。

農薬や化学肥料、殺虫剤を土に混ぜれば、それはそのままわたしたちの体に塗り込むのと同じです。
水を汚せば、わたしたちの血液もまた濁るのです。

環境汚染と難病疾患は、合わせ鏡の関係にある―なぜなら、わたしたちは、全部つながっているからです。
わたしたちの体は、自然そのものだからです。

この関係を知らなければ、現代社会にある様々な問題の本質をとらえることは、おそらくできないと思います。

どうか、本当に“食”や健康について考える方は、心に留めておいてください。

“自分の健康”という狭い考え方では、本当の意味では健康にはなれないのです。

“何を食べれば良いか”以前に、その食べ物を恵んでくれる自然に対して、わたしたちが取るべき態度を改めるべきではないでしょうか。

全部つながっているという感覚で、どうか自分のカラダと自然との関係を、もう一度感じてみてください。






2016年3月21日月曜日

食べ物の陰陽~その2

薬膳の基本に、陰陽の理論があることは以前取り上げました。
食べ物には、食べた時に体に作用する働きによって、

体を温めるように作用するものを陽(熱・温)
熱を冷ますように作用するものを陰(寒・涼)

としています。

ヘイちゃんのバランス絵本①~食べ物のひみつ~の巻末に、陰性食品と陽性食品を紹介したページがあります。

これは、中国の医薬学書『本草綱目』や、江戸時代の医家人見必大の著した『本朝食鑑』などを参考として、その食品そのものの持つ基本性質を分類したものです。

ところで、陰陽は比較の概論であり、絶対のものではない、ということをお話ししました。

食品にも、同じことが言えます。

例えば、食べ物そのものの持つ性質が陰性だったとしても、それを中和したり、陽性に働くようにすることができます。

その秘訣は、調理・食べ方にあります。

そもそも、人が“食べる”という行為をする時、そのまま生で食べるということは、稀です
必ず、何かしらの手を加えますよね。

お刺身や生野菜サラダがある、と言われるかもしれませんが、それにしたって、そのままそれだけで食べることは、まずありません。
お刺身ならわさびや紫蘇などの薬味を添え、お醤油を付けて頂きます。
野菜サラダだって、塩気やスパイスなどがなくては、食べるのもちょっと大変でしょう。

おそらく生でそのまま食べるのは、一部の果物くらいのものかもしれません。

食べ物の持つ性質に関わらず、人はその食べ物を調理して食べます。

まずは、調理の前段階、食品の製法

食材の保存性を高め、バリエーションに富んだものへと進化させるひと手間です。
この代表的なものに、乾物や発酵食品があります。

天日に干して水分を飛ばす乾物。
例えば昆布やヒジキなど、海藻類はカラダを冷すもともとの性質がありますが、乾物にすることで、陰性が抑えられます

また、発酵食品である、酒・みりん・味噌・梅干しなどは、原材料の米や大豆・梅が中庸(平)に分類されるのですが、発酵することで、いずれも陽性の働きを持ちます
*いずれも腸内環境を整える食品。腸内での代謝には発熱が伴うため、陽性に分類されると考察される。

そして食品の調理

茹でる・煮る・炊く・焼く・炒める・揚げる…ほんどに“火”を入れる工程がありますね。

“火”は陽の具現化したもの。
調理して“火”を加えることで、その食べ物はより陽の性質を持つのです。

もう一つが、食べ方

調理は”火”を入れるだけではありません。
他の食材と組み合わせたり、味付けしますよね。
調理をしたものは、少なくとも二つの味以上は混ざっています。

例えば、陰性とされるタコのお刺身。
ボイルするかしないかで陽性の度合いが変わりますが、この場合は生で頂きましょう。
タコが甘味に属して、添えられたワサビなどの薬味は香辛料=辛味ですし、醤油は鹹味、これだけで三味は揃っていますよね。

性質でみると、香辛料の辛味が身体を温める陽性の食材ですから、この時点でタコの陰性は中和されるわけです。

こうして、人の口に直接入る形での食品の陰陽を見てみると、圧倒的に中庸(平)・陽性(熱・温)が多いと言えます。

食べ物の陰陽の基本性質を知った上で、その食べ物をどのようにして食べるか、が食養生の基本になります。

“食べる”行為は生物共通ですが、調理というひと手間は、人以外の生物はしません。


毎日のお料理は、陰陽の偏りをなくし、よりバランスの良い状態で体に取り入れる、大切なプロセだということを、ぜひ知って頂きたいと思います(*^_^*)

2016年3月20日日曜日

"情報"のバランス

個人的な理由で、テレビというものを持っていません。
そう言うと驚かれることが多いのですが、日常生活で特に不便を感じることはありません。

確かに、情報発信源としてテレビの役割は大きいので、私に入ってくる情報は少ないと思います。

けれども、大切な情報は自分から求めていきますし、知るべきことは、大抵何らかの形で入ってくるから不思議です。

何か知りたいことがある時などは、インターネットはおおよその外郭を掴んだり、どの書籍に詳しいかという情報を得るのに、本当に重宝します。

一昔前は、自分が知りたいことを知るのに、本当にたくさんの時間と労力が必要でした。


便利な世の中ですね(^^)

同時に、インターネットを閲覧していて、その情報の多様さに驚きます。
同じキーワードでも、解釈や切り口によって、内容がかなり違うものもあります。

これだけ情報が溢れていると、一体どれを信じれば良いか分からなくなりますよね(・・;)

大学の頃、メディアリタラシー(情報を評価・識別する能力)という授業がありました。その時、実際にテレビ局のプロデューサーでもあった講師の先生が、何度も言われていた言葉があります。

 

“メディアを信用するな。

情報を鵜のみにするな。

これからはますます、情報ツールは多様化・充実していくだろう。

しかし情報を扱うのも求めるのも、人間であることは変わりない。

情報を選り分け、判断するのは、最終的には受け取り手である私たちである。“

 

情報の受け取り手である私たちの質を上げなければ、情報が溢れていても、それを正しく受け取ることは出来ない、と言うことです。

また、それ以前に、世の中には、実は、“自分に必要のない”情報が、意外と多いように思います。
…“必要がない”だけならまだいいですが、もしかしたら悪意ある“有害”な情報もあるかもしれませんね(・_・;)

物事には陰と陽・正負・メリットとデメリットが、必ずセットであるものです。

テレビや新聞が言うから正しい、という判断基準は、自分で考える力を失ってしまった証拠ではないでしょうか。

単純に間違いということだってあるし、情報を発信する側の恣意的な脚色や、もしかしたら意図的に隠されている事もあるかもしれません。

情報一つにしても、その表層に惑わされることなく、それを冷静に、客観的に判断していく必要があります。

情報もまた、自分に取り入れることによって私たちの心理に影響する意味で、“食べ物”に似ています。

バランス感覚を育てて、質の良い、本当に自分に必要な情報を、選ぶことができるようになりたいものですね(*^_^*)

2016年3月16日水曜日

陰陽探し~梅と源平と日の丸と~

新春を告げる花、梅もそろそろ終わりの時期になりました。
清楚な白梅も、華やかな紅梅も、どちらも綺麗ですね。
 


 
そういえば、紅白の二色の花が同じ木に咲くことを、“源平咲き”と言います。

運動会のチーム分けの目印になる紅白帽も、実は紅が平氏を、白が源氏を表しています。

それぞれが掲げた旗の色に因むそうですが、そもそも源は“みなもと=水のもと”を意味するんだとか。
 
対して平は、桓武天皇の建設した平安京に因んで名づけられたという説が有名ですが、和訓にすると「多比良」=“タヒラ”。
火や日に通じる音「ヒ」が入っていますよね。

日本の歴史をみても、平安末期の源平の合戦の後、政権を取った家の系図をたどると、源氏に縁のある家の次に、平氏に縁の家が台頭する…というように、繰り返し巡っていると聞いたことがあります。

源氏と平氏、この宿命的なライバル関係は、水と火、白と赤、ひいては陰と陽を連想してしまいます。

さて、紅白を対比した場合、赤は陽、白は陰の色ということになります。
(これが、白と黒を比べたら、白が陽で黒が陰になるわけですが…ややこしい(_;)

先日、ある式典に参列してきました。
ぼんやりと、掲げられた国旗を眺めていて・・あら、これも紅白。

でも色だけではなくて…これ、もしかして、陰と陽をあらわしているのではないでしょうか?

陰陽をあらわした図には、太極図があります。
お隣韓国の国旗にもありますが、上昇する陽気と、下降する陰気をあらわしたもの。

日本の国旗は、ご存じ“日の丸”。(法律上では日章旗と言われるそうです)

中央の真っ赤なは太陽をあらわします。

 でも、“日の丸”も陰と陽を語っている、と思えるのです。

 中国の古い言葉に“天は丸く、地は方(四角い)なり”という言葉があるのですが、天は陽、地は陰に属します。
丸くて赤い、陽。
四角くて白い、陰。
 
さらに、
陽の気の“収縮性”
陰の気の”膨張性”
そのチカラの方向性や性質まであらわされているようにも見えてきます。

 梅の話から飛躍しすぎでしょうか(^_^;)

 話を戻して梅。

梅の実の薬効は、とても優れているのでまたの機会に譲るとして、中国の薬学書『本草綱目』(李時珍著)に記載されていた、梅のお花のちょっとした利用法を(ちょっと意訳して)ご紹介しておわりたいと思います(*^_^*)♪

 蜜漬梅花】

梅干しの梅肉を浸した冷たい水に花を漬け込む。

一晩さらして、それを蜂蜜に浸して食べる。

“酒のツマ”にオススメと書かれていましたが、梅干しの塩気&酸味に漬け込み、それを蜂蜜の甘味で食べるというこのシンプルな方法。

腎・肝・脾胃を補う三つの味が揃っていますので、食養的にも◎です)^o^(
お酒のお供だけでなく、ちょっとしたおやつにも良いかもしれません。
 
行く春に、梅の花を食すのも、また一興かもしれませんよ♪
 

平安女房装束 ”梅重” 百人一首第六七番 周防内侍より
 
春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなくたたむ 名こそ惜しけれ



 

 
 

2016年3月11日金曜日

春と”肝”

“春眠暁をおぼえず”

とはよく言ったもので、最近眠くて眠くて仕方がありません…(p_-)

春は五行の木行に属す季節

“陰の気”が最も強くなる冬が終わり、再び“陽”が始まるのが春です。

自然界には“陽気”が高まり出し、草木は芽吹き、花が蕾を開き、冬眠していた動物たちも目を覚まします。すべてのものが、再び活動を始める季節なのです。

自然の変化は、人の心身にも様々な影響を与えます。

春になると新しいことを始めてみたくなったり、わくわくしたりしますよね(*^_^*)
も、そのバランスが崩れると、気持ちの高ぶりによる不眠・イライラ・精神不安定などが生じやすくなります。

“陽気”が高まると、生理的な影響はどうでしょう。

体表に気血がめぐって人体も活動的になりますが、同時に気血が上半身にのぼりやすくなります。

これはとっても自然なことなのですが、それによって、のぼせやめまい・ほてり・頭痛・血圧上昇…などの症状が出やすくなります。


これらの心身の症状は、春になると“肝”が活発に働くことから生じると言われています。


“肝”は木行の属性。木はぐんぐん空に向かって伸びていきますよね。
気血の上昇は、その性質に相似しています。

さて、肝臓の働きとして知られるのは、主に解毒ですね。

また、東洋医学の“肝”の重要な働きには、血液の解毒に加えて“気血のめぐりの調整”と“血を蓄える”働きがあります。

血液と関わりの深い“肝”の働きが活発になりすぎたり、あるいは機能が低下することで、様々な症状が出てくるというわけです。

ところで、春と言えば花粉症に悩まされる方も多いでしょう。

“肝”ががんばるほど、気血が頭の方にのぼって、眼や鼻の粘膜に充血・炎症が生じやすくなります。
また、がんばり過ぎて疲れてしまうことで、血液を解毒する力が弱くなり、これがアレルギー症状の一因になっているのかもしれません。


“肝”を補う味は“酸味”。
また、解毒作用のある“苦味”の山菜が旬を迎える季節でもあります。
春の食養生法として、酸味と苦味を意識して、食卓に取り入れてみてくださいね。


ところで、春はどうして眠いのでしょうね。

 ”五労”と言って、長く同じ姿勢や動作をすると、それぞれの五臓を傷めてしまうという考え方があります。
”久行”=歩き過ぎや動き過ぎは”肝”の働きを弱めるといいますから、身体中の血を集めて解毒するには、寝そべった状態がベストということなのでしょうか。

春の眠気は、もしかしたら“肝”ががんばってくれている証拠なのかもしれませんね(*^_^*)



春の簡単食養生レシピをご紹介します♪

【菜の花と玉葱の梅肉マヨ和え】

    菜の花を色よくゆがき、水に浸した後しっかり水気を切っておく。
    玉葱はスライスして塩でもみ、水気を切る。
  *玉葱を甘酢に漬けこんで常備したものを使うと、さらに味が締まります(*^_^*)
③ 梅干の種を除いて包丁の背で叩き、蜂蜜・みりん・醤油・マヨネーズで味を調える。
     ①②③を和える。

梅は酸味。
菜の花は苦味。辛味の玉葱も加えて、血液をキレイにし、春に負担のかかる“肝”を助けてあげてください。

他に、”菜の花ちらしずし”なども、春らしい見た目で食養生的にもオススメです♪↓


 【菜の花ちらしずし】
蓮根・筍・人参・干椎茸などを細かく切って出し汁で下味を付け、
酢めしと和えて、上に湯がいた菜の花・海老・ジャコ・錦糸卵・海苔などを、
お好みでちらして出来上がり。


2016年3月10日木曜日

春の匂い

自然に親しんで育ったせいか、季節の移り変わりを、草木や風に教えてもらうことが多いです。

この季節、風に沈丁花の匂いが混ざりだすと、新しい季節が始まるんだな、という感じがして、わくわくします(*^_^*)


同時に、いつかの春に感じた、不安や焦りや心細さまで蘇ってきて、何だかそわそわします。

そういえば、“匂い”と記憶は、とても深い関係があるそうです。
嗅覚は五感の中でも最も原始的で、脳の中で匂いの情報を伝達する入り口となるのは、大脳辺縁系の“嗅覚野”という部位。
“嗅覚野”は、記憶を司る海馬や、感情と深く関わりのある扁桃核と近い位置にあるんだとか。

匂いがさまざまな記憶を呼び覚ますのは、こうした理由があるんですね。

…と、アロマセラピストだった頃、そんな勉強を必死にしたことも、この季節になると思い出します。

東京は人の多い街です。
ふと目をやった歩道橋の向こう側で信号待ちしている人の多さに、驚くことも少なくありません。
これだけ人が集まれば、悲喜こもごも、毎日様々なドラマは起こるでしょう。

昔から都会に憧れる、なんてことはなくて、むしろなんの理由もなく、”都会はコワい所”だと思っていました。

空も狭そうだし、
空気も悪そうだし、
お水も美味しくなさそうだし、
道行く人もみんなよそ行き顔で、クールな感じだし、
事故や事件も多そうだし、
緑が少なくて、なんだか殺伐としていそう…

…と、ネガティブなイメージばかり(^_^;)

ご縁あって住んでみて気が付いたことは…

場所によりますが、空が意外と広いこと。
夕暮れ時のビル群が、優しい表情を見せてとても綺麗なこと。
公園や街路樹、それにそれぞれのお家にも、限られたスペースを上手に生かして緑がたくさん植えられていること。

そして、人が多いということは、それだけ思いやりや優しさも多いということです。

道を聞いた時、親切に教えてくれる人はもちろん沢山いますし、地下鉄で席を譲り合う姿を頻繁に見かけます。
お花屋さんが花束に大目に花を入れてくれたり、犬の散歩をしていたおじさんに、犬を撫でさせてもらったり…。

道端に咲いた沈丁花の花の香りに、足を止めているサラリーマンの姿を見て、春に気づく人がここにもいるんだな~と嬉しくなりました。

自分の目が、善意や微笑ましい風景を拾うようになると、そこはとても居心地の良い世界に早変わりするから不思議ですよね(*^_^*)

素敵な春がみなさんに訪れますように。

~植物MEMO~
沈丁花(ジンチョウゲ) Daphne odora
 ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属
中国名は瑞香(ずいこう)。和名は“沈香”と“丁香”を合せたような芳香から。
消炎・鎮痛作用があり、民間療法では花を煎じて、喉の痛みや口内炎・腫れ物などに利用する。


 

2016年3月8日火曜日

お味噌の小話

寛永・享保・天明・天保の四大飢饉をはじめ、江戸時代は冷害や干ばつ・水害などによる凶作にたびたび見舞われます。

特に元禄・宝暦の飢饉は東北地方で大きな被害をもたらしたとされ、後の世の人々に一人の餓え人も出ないようにとの祈りを込めて、救荒食(日照りや冷害などによる食糧危機の時、急をしのぐ食糧)となる草木をまとめた冊子が作られました。

米沢藩主上杉鷹山(治憲)の命によって編まれた『かてもの』や、一関藩の侍医建部清庵の著した『備荒草木図』などです。

『かてもの』
出典:国立国会図書館デジタルコレクションより

『備荒草木図』 
出典:国立国会図書館デジタルコレクションより

救荒食となる草木は、アクが強く、そのままでは食べられません。

そこで、庶民にもわかりやすい簡潔な文面で、『かてもの』はイロハ順に、
『備荒草木図』はイラスト付きで、それぞれいざという時に食糧となる野草や木の若芽・根や、その毒にあたらないための食べ方が記されています。

たいていが茹でて水に浸し、アクを抜くのですが、『備荒草木図』などは、ほとんどが「塩味噌に調へ食べし」とあります。

どんな食べ物も塩気がなければ美味しくありませんが、この場合は単に味付けの問題ではなく、お味噌の解毒作用を考慮したアドバイスだと思います。

ところで、『かてもの』には、
「味噌・塩をまじへて食わねば大事に至るよしに候へば、必ず味噌塩にて調へ食ふべく候事」
(*意訳:飢饉で飢えて衰えた身体には、食あたりなど大変なことになるので、必ず味噌や塩を合せて食べるように(^´))としたうえで、「村役共常に心を用べきヶ条」として、こんな一文があります。

凶年(不作)に当て、穀につぐ大事の物は味噌と塩とに候。
平年穀食するだにも、味噌・塩なくしては、穀の用をなさず、況(いはん)や穀食乏しく木の葉、草の根を食ふときをや。然らば塩と味噌との世話に心をつくすべし。

主食(又は代わりとなる食糧)と共に、味噌と塩は必須のもの。
もしもの時に備えて、味噌や塩を備えておくように。

と、その心構えを、村役などの役付きの人たちに具体的に示し、さらにこの後、さまざまな種類のお味噌のレシピを紹介しているのです。

これらの救荒食の冊子が作られた背景もそうですが、昔の人の意識の高さというか、人としての質の高さを垣間見ることのできる一文です。

防災の上でも、“食”と“医”(いざとなれば、外用薬としても使えます)を兼ねる働きをもったお味噌はとても優れています。
発酵食品ですので、他の食料と違って長期保存がききますし、家庭で常備していて困ることはありません。

今の行政機関にも、賞味期限付きのカップ麺などより、ぜひ味噌を作っておいて欲しいものです。



お味噌の仕込み

先月、お味噌を仕込みました。

お味噌は昔から“寒仕込み”と言って、寒さの厳しい時期(2月頃)に仕込むと良いと言われます。
理由は諸説あるようですが、気温が低いため雑菌も少なく、また酵母たちの働きも緩やか。
時間をかけてゆっくり発酵させることで、味に深みが出るのだそうです。


お味噌は大豆・塩・麹から作られる、日本の伝統的な発酵調味料。
その性味は、甘・鹹・温。
(脾胃を助ける甘味と、腎を助ける鹹味に属し、食べると身体を温める性質を持つ)
昔から解毒・滋養の効能は知られており、日本人の毎日の食事に欠かせない存在でした。

実際に近年、お味噌の様々な効用が、科学的な研究に基づいて発表されています。
*ガン発症の低下・老化防止作用・血圧低下作用等…
食中毒の原因となる病原菌を味噌に添加したところ、病原菌は増殖できない所か、だんだん死滅するという研究結果も。
また、味噌の持つ細胞の新陳代謝を促進する作用は、放射線の脅威に対しても有効として知られています。


そんな素晴らしい効果を持ったお味噌。
先ほども言った通り、大豆と塩を原料に、麹菌によって”発酵”することで出来上ります。
”発酵”と一言で言ってしまえばそれで終わりですが、もう少し言葉を付け加えると、微生物(酵母菌)がエネルギーを得るために代謝活動をすること。
この過程で、人にとって有益なさまざまな成分が生成されるのです。


さて、ここで、味噌甕の中で起きているケミストリーを科学的(?)に見てみましょう。

お味噌の主原料となる大豆。
良質な植物性たんぱくを豊富に持っていますが、普通の過熱調理では消化吸収されにくいという欠点があります。


この大豆が、微生物(酵母)のチカラをかりて発酵すると…


大豆たんぱくは酵素によって加水分解され、60%が水分に溶け、約30%がアミノ酸になり、さらに炭水化物はブドウ糖になって消化吸収されやすくなります。


また発酵過程によって大豆そのものにはない(あっても少量)、アミノ酸やビタミン類が多量に生成され、栄養価はさらに優れたものになります。
その中には、生命を維持するために不可欠な必須アミノ酸8種類がすべて含まれているのだとか!


これは発酵食品全体に言えることかもしれませんが、原材料の食材が持つ効能が引き継がれると同時に、それが“発酵”することによって、さらに効果が多様になります。
つまり、大豆そのものを食べるよりも、発酵させたお味噌のほうが、栄養素は豊富になり、しかも消化吸収しやすくなるーいいことばかりなのです(^o^)丿♪

…と、難しいことは分からなくてもいいのです。
一度自分で作ってみてください。

味噌甕の中で微生物たちが一生懸命“生きて”いるのが感じられて、とてもうれしい気持ちになりますよ(*^_^*)
(ちょっと違うかもしれないけれど、ペットがいるみたいな…)


参考までに、味噌の作り方を簡単にメモしておきます。


    大豆をきれいに洗って一晩水に浸しておく。


    大豆が柔らかくなるまでよく煮る。


    煮あがった大豆をミキサーやすりこ木でつぶす。

    塩と麹をすり合わせるようにしてなじませておく。

    ④に粗熱のとれた③を加え、よく混ぜる。

    アルコールなどで殺菌した味噌甕などの容器に、空気が入らないように詰める。
 *適当な大きさの味噌玉を作ると、詰めやすい。

    表面に塩を振りかけ、空気に触れないようにラップなどをして落し蓋&重しを置き、常温で保存。

材料すべてを混ぜ合わせるのは、かなり力を使います。
腕ではなく、腰を使って全身でこねると、楽です。(でも大抵は筋肉痛になるけれど)
10ヶ月~一年ほど寝かせると美味しくなるそうですが、気温の高くなる夏に発酵のピークを迎え、秋ごろには味が整ってきます。
 
基本的な配合としては、おおよそ、大豆:麹:塩=塩1:1:0.5の割合で作りますが、配合や細かい作り方にはいろいろあるようなので、ご自分で調べてみたり、実際に何度も作りながら、少しずつ好みに調節されればよいと思います。
*以前勘違いして、大豆:麹:塩の割合を、2:1:1と表記してしまいましたが、2:2:1(1:1:0.5でもいいけれど)でした(・・;)
麹の割合を多くする程、贅沢な作り方のようです。失礼いたしましたm(__)m

お味噌は食養の観点から見ても、とっても素晴らしい食品です!
作り方もそれほど難しくないので、ぜひぜひ“手前味噌”をご家庭でも作って、毎日の食卓に取り入れてみてください(*^_^*)