2015年12月21日月曜日

”無常”ということば

“無常”という言葉には、厭世観をあわせ持ったような響きが付きまといます。

“人の世ははなかい”
“生きることはむなしい”

日本の文化の根底には、この独特の人生観が見え隠れしています。

けれども、万葉集や上代の和歌などを見てみると、
割と(というかほとんどが(・・;))恋を主題にした歌が多く、
悲観的な表現もたいていが恋愛感情から生じている、言ってみれば幸せな嘆きです。
実際に恋に苦しんでいる状況の人からしたら、幸せでもなんでもないかもしれませんが…

それに、“花”と云えば“桜”が思い浮かびますが、上代の“花”は香りたつ“梅”が主流。

日本の文化はもともと、それほど“はかなさ”とか“むなしさ”にフォーカスしてはいなかったようです。

しかし、源平の争乱期や戦国時代を経て、
“人の世のはかなさ”を嘆く心が生んだ独特の人生観・死生観は、

日本文化に深く根ざしていくように見えます。

平家物語に曰く、
“祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり…”

方丈記に曰く、
“よどみに浮かぶうたかたは かつ消えかつ結びて久しくとどまりたるためしなし…”

いろは歌に曰く、
“色はにほへど散りぬるを 我が世誰そ常ならむ…”

春に一時に咲き、風にはかなく散る“桜”が、
日本人の精神性を象徴する花と言われるようになったのも、そのせいかもしれません。

“はかない”人生の中でも潔く美しく生きよう、とか、

“はなかい”人生だからこそ、人との一瞬の邂逅を大切にしよう、とか、

反対に“はかない”んだから楽しんでせつな的に生きよう、とか、

いろいろと時代や階層によって表現は変わっていきますが、
やはり日本文化を生み出す一翼を担う観念だと思います。

でも“無常”という仏教用語の本来の意味は、

“この世界の全てのものは、とどまることなく常に生じたり滅したりして移り変わっている”

ということ。

言ってみると宇宙の真理を述べた言葉に過ぎず、そこに哀しみや嘆きはありません。

静止した状態が無く、常に動き続けるめぐりの中にあるのが、この世の真理である。
生と死すらも、そのめぐりの法則の中のこと。

“無常”とは、
陰と陽が絶えずめぐるバランスを、一言で見事にあらわした言葉ではないでしょうか。



平安女房装束 ”桜重” 百人一首第九番 小野小町より
 
花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに

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