2016年1月28日木曜日

塩のおはなし

生物は進化の過程で海から陸にあがる時、“海を抱いてきた”と言われます。

海の水は“しおからい”。

体内は生理食塩水と同じ塩分濃度に保たれていて、人の体液は涙も、汗も、尿も、血も、しょっぱい。

“しょっぱい味”と聞いて一番に思いつくのが“塩”です。
塩はお料理にも欠かせない調味料ですが、塩分は生体を構成する大切な要素であり、生命活動を維持する上で、必須の存在です。

ところで、うっかり飲んでしまったことのある人は分かると思いますが、海水はただ“しょっぱい”だけではありません。
独特のえぐみというか、複雑な味がします。

パソコンで“しおからい”と入力して変換すると、“鹹”という一字が出てきます。
“鹹”という字の“鹵”は、苦汁(にがり)を意味します。
つまり、鹹味(かんみ)は、単に塩味のことではなく、苦汁成分(マグネシウム・カルシウム・カリウム・ナトリウムなどのミネラル)を含んでいる味のことなのです。

海水に含まれる塩分の主成分は塩化ナトリウムですが、その他の微量のミネラルが、生命活動を支える上でとても大切な存在なのです。
 
例えばカリウム。
カリウムとナトリウムは、まるで陰と陽のような、正反対の働きを持つミネラルです。
カリウムは排泄や利尿の働き。ナトリウムは保持の働き。
カリウムは細胞の内側に多く、ナトリウムは細胞の外側多く存在している。

カリウムにはナトリウムを体外に排出する効果があるので、過剰な塩分摂取を自ら抑制・調整する機能を持っています。
カリウムとナトリウム、この二つがそろってバランスを保っているのが分かります。

東洋医学の理論では、塩分とミネラルを併せ持つ“鹹味”は、 “腎”を助ける味とされます。
“腎”は生命力そのものである“精気”を宿す場所。
“腎”の衰退はいわゆる老衰現象を引き起こし、“精気”が尽きる時、人は死ぬのです。
“鹹味”が生命力そのものにかかわる、大切な味とされていることが分かります。

さらに“鹹味”は精神的にも影響します。
江戸時代の奉行所では、罪状を吐かない罪人に“塩抜き”をしたという逸話がありますが、塩分が切れると神経の活動が遅れ、筋肉の収縮力が弱くなることは、近代医学的にも実証されています。

“イマイチ元気がでない”とか、“やる気がでない”で無気力な時は、もしかしたら“鹹味”が足りないのかもしれません。

ところで、塩にもいろいろありますが、お値段もいろいろ。
その中でもリーズナブルな“食塩”。
イオン交換膜製塩法で精製された化学塩です。
”食塩”はナトリウム以外のミネラルが非常に少なく、塩化ナトリウムが99%以上と言われています。
*カリウムが含まれていれば、多すぎるナトリウムは排泄されるはずですから、
 塩分=高血圧の縮図も、この“食塩”の消費拡大との関係が考えられます。

自然ではあり得ない極端に偏ったバランスの塩分は、身体にさまざまな悪影響を及ぼします。
それだけでなく、本来補うはずの“腎”を最も痛めつけてしまいます。

目先の安さについ手が伸びてしまいがちですが、塩はミネラル分を含んでこそ、“腎を補う鹹味”であり、身体を養生してくれます。

“鹹味”の代表である塩は、生命力や生きる気力にも影響する大切な味です。

どうか質の良い“鹹味”を身体に供給してあげてください。



2016年1月20日水曜日

決算書とお金のバランス


ちょっと食養から横道にそれて・・・


はじめて会社の決算業務に携わった時。
これって、ようするに健康診断なんだな、と思いました。

よく健康診断前にダイエットを決行して体重測定に臨む女子がいます。
少しでも軽い体重記録を残したいと、いじらしい努力をしているわけです。

あるいは、ふだんから肝臓の数値が思わしくないおじ様方も、検査日前になって急に禁酒する方も多いですよね。
その努力が見事実って、診断書の数値上は一見問題ないわけですが…
この場合、いじらしいというか、一体誰に対して良く見せようとしているのか、ちょっと疑問です(^_^;)

でも、少しでも軽い体重、正常な数値の診断書があると、それが一時的なものであれ事実ではあるわけですから、“肝臓の数値は正常”だとか、“わたしは○○キロなの”と言える(というか、自分で思い込める)わけですね。

企業の場合は、やりすぎると脱税とか、法に触れることになりますけれど…

会社の健康度を計るのは、収支―収入と支出―のバランスになります。
お金の出納も体重の増減に似ていて、即それが今の体重にすべて反映されるわけではありません。

ちょっと食べすぎた後の3キロ増えた体重が自分の本当の体重ではないですよね。
しばらく時間をおけば、食べたものは消化され、余分なものは排泄されます。
それに着ぶくれた状態で測った体重は、衣類分を差し引いて考えてもらわないと、やっぱり正確な体重は出てきません。
こうした時間差や状態で変化する体重は、帳簿でいえば掛け金にあたるでしょうか。

決算書には資産と負債を示した、その名も“バランスシート(BS)”と呼ばれる表があります。
単純に今の体重、今の数値、だけではなくて、今の時点で予想される体重の増減、数値の変化までもある程度見込まれた会社の健康診断書です。

でも、本当の、本当の意味での自分の体重って、実は一時も定まることがないですよね。

わたしたちは生きています。

単純に食べる、飲む、出すだけではありません。呼吸も、皮膚呼吸も、代謝もすべて、細かいミクロの世界で見れば、常に体重を増減させています。

会社だってそうです。

今の売上と預金現金が定まっていても、今日のオフィスの電気代、水道代、電話代は常に掛かっていて、数日後に請求されます。

常にお金は出たり入ったり、留まることなく動き続けています。
会社もまた、生き物と言えるかもしれません。

ある程度の幅の範囲内で、ある時、定点を置いて測定する―それが健康診断書であり、決算書なのかな、と思います。

 だから、その体重も、そのお金も、絶対のものではないわけです。

く、“年収いくら”という言葉を聞きます。

けれども、“年収”だけでものを考えるのは、ちょっとバランスが悪いかな、と思います。

それは、付け焼刃で禁酒して勝ち取った肝臓の数値だけを見て、“健康”だと判断するのとちょっと似ています。

陰陽のバランスの基本として、大きなお金が動くときは、入ってくるのも、出ていくのも、やっぱり大きいと思っておいた方が良いかもしれません。

今の世の中には、どちらか一方“だけ”を見せて判断させる情報や価値観が多いように思います。
お金もまた、陰と陽のバランス感覚で考えてみると、面白いですよ。



2016年1月12日火曜日

食べ物の陰陽

陰と陽は比較の概念である、と以前「陰と陽ってなんだろう?」で紹介しました。

陰と陽は東洋医学ひいては“薬膳”の根幹となる概念です。
 
自然界のあらゆる事物や現象が、陰陽の消長衰退の運動調和で出来ていると考えられ、自然の恵みである食べ物もその例外ではありません。

食材の陰陽は、それを食べた時に、

“身体を温めるように作用する”→陽性か、

“熱をさますように作用する”→陰性か、

ということで判断されます。

寒熱の程度は、以下の五段階で現され、これを五性(ごせい)と呼びます。
 
熱(温める作用が大きい。温とも)

温(温める作用がマイルド。温に対して微温とも)

平(温めも冷やしもしない中庸)

涼(熱を冷ます作用がマイルド。微寒とも)

寒(熱を冷ます作用が大きい) 

東洋医学の本草書(医薬学書)には、薬となる植物や食べ物の性質(五性)が必ず記されています。

さて、この食べ物の陰陽をどう活かすのか、というと、“身体の陰陽のバランスをとるため”です。

陰陽のバランスがとれた状態のことを平(へい)と言いますが、わたしたちの身体には、調和のとれた状態を維持するホメオスタシス(恒常性)機能が備わっています。

そしてこのバランスが崩れると、“病”という症状として現れると考えます。

つまり、いかにして“平”を保ち、アンバランスになった場合に“平”の状態をとり戻すか―これを考えることが、東洋医学の基本となります。

そこで食べ物の陰陽が重要になります。

例えば、自然界の陰気が高まれば、私たちの身体は”陽”の気を増やしてバランスを取ろうとします。
もっと分かりやすく言えば、陰気が最も強くなる冬、気温は下がり寒くなります。
だからと言って、変温動物のように、わたしたちの体温は下がりませんよね。
それは、わたしたちの身体の中の熱を生む力が働くことで、バランスを取っているからです。

食べ物の持つ、温めたり、冷ましたりする陰陽の作用は、こうした身体の機能を助けて、中和してくれるのです。

つまり、身体が冷えている時や寒い季節には、身体を温めてくれる食べ物で陽の気を補い、身体が火照っている時や暑い季節には、熱をさましてくれる食べ物で陰の気を助ける、ということです。

でも膨大にある食材のどれが陰でどれが陽か、なんてとても覚えられませんよね(_;)

今はネットで検索すれば、涼・寒(陰性)の食材、温・熱(陽性)の食材も、わかりやすく整理された一覧表などが、簡単に見られるようになりましたので、いろいろ見て参考にされてみてください。

*ただし、食材によっては陰陽の分類が真逆だったりと、判断が分かれるものもあります。
 これは何百年・何千年の歴史の中で、さまざまな人々が注釈を加えたりしながら補訂されてきたので、それぞれの経験に基づいた陰陽さまざまな見方があるんだな、ということで、心を広く持って“大体こんな感じなんだな”くらいにしておきましょう♪

さて、ここでは食材の陰陽を判断する大まかなポイントをご紹介しておきます。

ポイントは二つあります。
 
ひとつめが旬―季節との関係です。

自然界の陽気が最も盛んになるのは夏です。
この時は、陰陽のバランスをとるかのように、陰性の性質を持った食べ物が旬を迎えます。
夏野菜はいずれも水分を多く含み、多くが身体の熱を冷ます作用があります。
反対に陰気が最も盛んになる冬、旬を迎える根菜類の多くは、身体を温める陽性の性質があります。

もう一つは、味。

基本的に苦味と酸味の食べ物が体の熱を冷ます味とされます。
反対に身体を温めるのは、香辛料などの辛味・鹹味(かんみ:塩辛い味)になります。

もちろん、これはとてもおおざっぱな判断基準なので、細かく見ていくと例外はありますが、日々のお料理の食材選びに、意識して“陰と陽のバランス”を取り入れてみるのもいいかもしれません。

ちなみに寒いこの時期は、積極的に“陽”の気を補いたい季節。

お料理の調理法としては食材に火を入れたり、温かいお風呂に入ったり、身体の内外ともに冷えないように心がけてくださいね。