生物は進化の過程で海から陸にあがる時、“海を抱いてきた”と言われます。
海の水は“しおからい”。
体内は生理食塩水と同じ塩分濃度に保たれていて、人の体液は涙も、汗も、尿も、血も、しょっぱい。
“しょっぱい味”と聞いて一番に思いつくのが“塩”です。
塩はお料理にも欠かせない調味料ですが、塩分は生体を構成する大切な要素であり、生命活動を維持する上で、必須の存在です。
ところで、うっかり飲んでしまったことのある人は分かると思いますが、海水はただ“しょっぱい”だけではありません。
独特のえぐみというか、複雑な味がします。
パソコンで“しおからい”と入力して変換すると、“鹹”という一字が出てきます。
“鹹”という字の“鹵”は、苦汁(にがり)を意味します。
つまり、鹹味(かんみ)は、単に塩味のことではなく、苦汁成分(マグネシウム・カルシウム・カリウム・ナトリウムなどのミネラル)を含んでいる味のことなのです。
海水に含まれる塩分の主成分は塩化ナトリウムですが、その他の微量のミネラルが、生命活動を支える上でとても大切な存在なのです。
例えばカリウム。
カリウムとナトリウムは、まるで陰と陽のような、正反対の働きを持つミネラルです。
カリウムは排泄や利尿の働き。ナトリウムは保持の働き。
カリウムは細胞の内側に多く、ナトリウムは細胞の外側多く存在している。
カリウムにはナトリウムを体外に排出する効果があるので、過剰な塩分摂取を自ら抑制・調整する機能を持っています。
カリウムとナトリウム、この二つがそろってバランスを保っているのが分かります。
東洋医学の理論では、塩分とミネラルを併せ持つ“鹹味”は、 “腎”を助ける味とされます。
“腎”は生命力そのものである“精気”を宿す場所。
“腎”の衰退はいわゆる老衰現象を引き起こし、“精気”が尽きる時、人は死ぬのです。
“鹹味”が生命力そのものにかかわる、大切な味とされていることが分かります。
さらに“鹹味”は精神的にも影響します。
江戸時代の奉行所では、罪状を吐かない罪人に“塩抜き”をしたという逸話がありますが、塩分が切れると神経の活動が遅れ、筋肉の収縮力が弱くなることは、近代医学的にも実証されています。
“イマイチ元気がでない”とか、“やる気がでない”で無気力な時は、もしかしたら“鹹味”が足りないのかもしれません。
ところで、塩にもいろいろありますが、お値段もいろいろ。
その中でもリーズナブルな“食塩”。
イオン交換膜製塩法で精製された化学塩です。
”食塩”はナトリウム以外のミネラルが非常に少なく、塩化ナトリウムが99%以上と言われています。
*カリウムが含まれていれば、多すぎるナトリウムは排泄されるはずですから、
塩分=高血圧の縮図も、この“食塩”の消費拡大との関係が考えられます。
自然ではあり得ない極端に偏ったバランスの塩分は、身体にさまざまな悪影響を及ぼします。
それだけでなく、本来補うはずの“腎”を最も痛めつけてしまいます。
目先の安さについ手が伸びてしまいがちですが、塩はミネラル分を含んでこそ、“腎を補う鹹味”であり、身体を養生してくれます。
“鹹味”の代表である塩は、生命力や生きる気力にも影響する大切な味です。
どうか質の良い“鹹味”を身体に供給してあげてください。